Producer’s talk 石田ショーキチ
そもそもの始まりは、2022年の4月にSHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて行われた町ガのワンマンライブの際のスペシャルシートのお客様用のお土産として作った5曲入りCDです。セカンドアルバム「オリオン座流星群」からアコースティック版のリアレンジで5曲収録しました。そのスペシャルお土産CDを手にしたお客様たちより、内容が素晴らしい、これは是非リリースして多くの人たちに聴かせてあげてください、そういう声を沢山頂きました。彼らは他の席より倍くらい値段の高いスペシャルシート料金を支払ってゲットした、いわばご自分の特権のお土産CDなのに、他の人たちにも聴かせてあげて欲しいと口々に申されるのです。なんていい人たちなんでしょうか。こういう方が本当に多いんです、町ガのお客さん。ありがとうございます。私もこういう泣けるご要望に弱いんで、そりゃあ作りますよねこんなCD。作りましたよこんなCD。渋谷の5曲入りお土産CDをベースにしていますが、新たに足した2曲、他の曲もMoon base以外はどこかしら手を加えてブラッシュアップし、メロディーとハーモニーがより際立つ最高の作品を目指しました。持論ですが、「名曲はどんなアレンジにも耐えうる」。それを証明する一枚になったと自負しております。じっくりとご拝聴いただけますと幸いです。弊社オンラインショップのみでの販売です。
通常CD盤 https://satrecords.thebase.in/items/69052136
24bit 48kHz WAVファイル https://satrecords.thebase.in/items/69054870
1, 星空のシンセサイザー (Acaustic ver.) 渋谷お土産CD用に12弦アコースティックギターで弾いたバージョンに、ガットギターでリードギターを足しあらたなバージョンを作りました。シンセサイザーが入ってなくても成立する星空のシンセサイザーの妙をお楽しみください。
2, 銀河ステーション (情熱のbossa ver.) 銀河ステーションは2018年の終わり頃に書いた曲ですが、同時進行で自分用の曲としてForget me notという曲も作りました。曲は同じですが歌詞が違う異名同曲で、当時まだ存命だった私の父が認知症の進行から私の顔がわからなくなってしまった悲しみを書いた曲です(シングル「 Love is blind」のカップリングとして収録)。この曲のアレンジの時に作ったストリングスアンサンブルをキーを変えて銀河ステーションに当て、ボサノバっぽいガットギターをベーシックリズムとして弾き、ピアノも弾いてみたらばなかなか情熱的なトラックになりました。
3, セブンスターズ (Electric piano ver.) 永原真夏さんに書いて頂いたこの曲、最初に頂いたデモはご本人がピアノを弾きながら歌われているものでした。その時の雰囲気に近づけてみようとエレピ(Electric piano)を弾いてみたバージョンです。伴奏がシンプルになればなるほどメロディとコーラスワークが浮き彫りになる好例となりました。冒頭と中盤のもえかの堂々としたソロがちょっと奮い立たせられる感じがします。
4, Moon base (Heavy acoustic groove) Moon baseという曲の最初は1998年3月発売のScudelia electroの3枚目のアルバム「Træk」のラストに収録したギターインストロメンタルでした。同年に発売された4枚目の「Flamingo」はこの曲をバンドバージョンに昇華させたFly out versionというスケーターロックというかスラッシュメタルみたいなバージョンで幕が開ける当時としてはちょっとした衝撃の作品だったわけですが、20年以上の歳月のうちに私はいったい幾つのバージョンをつくってしまったのかという迷曲中の迷曲となったこの曲の、極めて最後のファイナルアンサーがこの町ガのHeavy acoustic grooveということになります。もうこれ以上バージョン違いを増やすことはありません。これで打ち止めです。この曲のバージョン違いばかり集めたアルバムを作っても面白いかもしれませんね。誰も買わないと思いますけど。
5, くじら座のミラ (Piano mix) これはアルバムで制作したマルチトラックのうち、歌とピアノだけでミックスダウンしたバージョンとなりますので新たに演奏やプログラミングは加えていません。曲そのものの構造がすごくシンプルで良くできているのでピアノと歌だけにしてしまっても全然平気、こちらも伴奏がシンプルになればなるほどメロディとコーラスワークが浮き彫りになるというサンプルになりましたね。
6, ひとつぼしポラリス (Tropical hula mix) Hirofumi Endo氏から頂いたこの曲のデーターにはたくさんの楽器の音が入っていて、その殆どはエレクトロニカなシンセサウンドでしたが、その影に隠れてアコギとエレキギターのパートも入っていました。ですが、元々音の強いシンセパートが非常に多い中でこの繊細なタッチの2つのギターパートは殆ど使用できなくて、隠れキャラとなりました。今回はこの2つのギターパートに着目しリードシンセ以外殆どミユートしてみたところ、意外や意外、実にハワイアンテイスト溢れるトラックになりました。Endo氏はこうした雰囲気を意図してギターを弾いたわけではないはずですが、結果北国に住む彼が南国風味の曲を作ったという面白い事実が残ることになりました。音楽とはかくも楽しいものですね。
7, オリオンのベルト (Piano mix) これもピアノと歌だけでミックスした作品ですが、一番最後のリフレインの回数がちょっと多く感じたので一回分だけ削除した以外はほぼ何も手を加えていない、ただのシンプルミックスバージョンですが、とても心震わせる最強の作品になったと思いますが如何でしょうか。この曲に関しては歌を録った時の状況に触れておきたいと思います。町ガの歌はソプラノ・メゾソプラノ・アルトの3パートに分かれているので録音の際にはコンデンサーマイクを3本立ててパートごとに一本のマイクに集まって全員同時に歌い、録音します。この時3本のマイクはそれぞれDAW(デジタルオーディオワークステーション、言い方を変えるとマルチトラックレコーダー)上で個別のトラックとして録音されていて、各パートごとにボリュームの上げ下げや音質の調整、エコーのかけ具合など諸々調整を行います(で、普通のプロジェクトでしたらメンバー7人全員別々のマイクで別々のトラックに録るということをやるんでしょうけどうちはそれはやりません、が、その理由などはまた別の機会に)ので、この曲もいつものように3パートに分かれてレコーディングしていたんですが、なんか全然まとまらなかったんですね、この曲に限って。で、一回集合、全員あつまれーと。で、誰がずれてるとか歌えてないとかじゃないと思うんだけど、なんかまとまらないからここでアカペラで一緒に歌ってみようか、と私の目の前でせーので歌わせた時の歌がびっくりするほど素晴らしくてですね。ああ、これを録らなければ、と思いました。なので、ヘッドフォンもっておいで、ここにマイク1本だけたてるから、ここに輪になってあつまれーと。で、一本のマイクの前に7人、1本のトラックで一発録りです。ちょっと泣いてしまいうような最強の歌がとれました。やはり合唱なので、全員が互いの歌を聴きながら一緒に歌う本番の状況が一番いい歌になるんだなっていうことを実感した録音でした。これを2回録りまして、右寄りと左寄りとに配置して、ダブルトラックにしています。ひよりのスーパー男前なソロの部分だけはここから切り出して真ん中に配置しています。という、「歌の強さ」が発揮されたあの日の私の目の前の状況を再現するかのようなピアノと歌だけのミックス、それが今回のバージョンというわけです。
図らずしも歌とは何か、ハーモニーとは何かということを追求し証明するようなミニアルバムになってしまった本作ですが、お聴き頂きました皆様はいかがお感じでしょうか。町ガの7人も最初からこんな歌が歌えたわけでは決してなく、努力を重ね、友情を紡ぎつづけてきた結果、こうした歌が歌えるようになったのだと思います。これからも努力と研鑽を続けて参りますので本グループを暖かく見守って頂けましたら幸いです。
石田ショーキチ・2022年11月17日 18:31 山岳集落の古民家にて