SAT-027 Life is mine, life is fine -New edition- 石田ショーキチ

Texit by 石田ショーキチ

弊社品番027の本作品は、元々SAT-009という品番で2015年にリリースされたアルバムを再編集したリイシューアルバムです。本来2020年初頭に5年ぶりのリイシューとして再発の企画を立て作業を開始しました(一つ前の品番SAT-026はシングルCD「300マイル離れて / Love in pain」2020年2月リリースでした)が、直後にダイヤモンドプリンセス号と共に新型コロナウィルスが我が国に上陸し、瞬く間に世界はロックダウンと自粛の世の中になり、エンターテイメント産業は壊滅的な打撃を被ることになります。弊社もその波に大いに飲み込まれ(今もまだその渦中にありますが)、過去の作品を悠長にやり直すなどという余裕はまったく無くなってしまい、どうやってこの時代をサバイブしていくかという過酷なロールプレイングに突入していき、制作は棚上げとなりました。

そこから3年弱経た2022年の終わりにこの作業を再開(その間に弊社品番は50番台まで進みました)、何度もミックスとマスタリングをやっては壊しやっては壊し、2月の末にようやく納得のいく形になりました。何度も行ったマスタリングのテストマスターCDは8枚に及びました。そもそも論でなぜSAT-009は廃盤にされやり直さなければならなかったかというところですが、2015年の石田は北京のバンドをプロデュースする仕事を受けており、日本と中国の行ったり来たりがあったり、My oldest numbers vol.3を同時に制作していたりと、非常に忙しい中リリース日に間に合わせなければならないという状況で作業時間が全然足りず、正直なところ8割くらいの出来で完成とせざるを得なかった為非常に悔いが残る作品となってしまいました。

演奏のレコーディング自体は2014年中に終わっており、年を越してミックスダウンの作業に割く時間がなかなか捻出できず、当時マスタリングをお願いしていた吉田明広氏にもミックスも2曲お願いしました。吉田氏には本当に感謝しています。一言でいうと、自分のミックスが雑で完成度の低い音像のアルバムだった、ということになります。

そんな状況でリリースされたSAT-009(通称青盤)でしたが、8年ぶりのセカンドアルバムということもあって瞬く間に3000枚が出荷されましたが、自分としては満足な音になっていないので追加プレスする気持ちになれす、いつかやり直そうと心に決めておりました。今回このやり直し作業にあたり、 24bit 48kHzでレコーディングしたデーターを96kHzにアップコンバートしてからミックスダウンを行い、音の解像度を飛躍的にアップさせることに成功しました。マスタリングについても2021年に行ったSAT-043オリオン座流星群の作業から自分でマスタリングを行うようになり、完全自社製のサウンドが作れるようになりました。

以下、各曲ごとに解説を記述します。


01 Life is fine ~ソングライターの孤独
石田:ギター、ピアノ、ボーカル
高石マキオ:ベース
河野瞬:ドラム
佐々木健太:オルガン
元々この曲は2013年だったか2014年だったか、私のデビュー20周年にて再結成したScudelia electroに某アニソンメーカーからとあるアニメ作品のテーマ曲制作の依頼が来たことで作った曲。そのアニメの件は監督が「やっぱり青春パンクがいい」と心変わりしたとかなんとかで立ち消えになり、手元に残った曲を自分のバンドで仕上げたものです。
青盤では二曲目に収録していましたが、アルバムを聞く度にこの二曲目のイントロで盛り上がり直す感じがなんだかなーと感じていた違和感があり、一曲目に配してこのイントロの高揚感のあるべき役割に。
2番のAメロと最後サビ前の落ちサビで鳴るピアノは青盤では佐々木健太君が弾いていましたが今回自分で弾き直したほか、2番のAメロのアンサンブルを整理してすっきりさせました。ミキシング的にはベースとドラムの低音の輪郭を高めること、歌詞が聞き取りやすくなるよう努めました。

02 蒼天航路
石田:ギター、ボーカル
高石マキオ:ベース
河野瞬:ドラム
佐々木健太:キーボード
青盤では冒頭の歌からなんとなく音が細い感じが気になって仕方がなかった。これを克服したくて全てのパートの存在が太くなるミックスダウンを行いました。当時は時間がなくて手を抜いたというよりこういう音を作る技術がまだ自分の中に確立されていないかったということだと思います。ようやく満足の形に仕上げることができました。

03 夏の手紙
石田:ギター、ボーカル
高石マキオ:ベース
河野瞬:ドラム
佐々木健太:キーボード
佐藤清喜:ストリングス
この曲についてはナイアガラ風とか大瀧さん好きですかと言われることの多い曲ですが、起想点はパーシーフェイス楽団の夏の日の恋。ストリングスアレンジをしてくれた佐藤君に伝える際にもパーシーフェイスで!と言ったところ、大瀧さんですね!と返ってきたのを覚えています。青盤と比べての変更点は特になく、ミックス上で音が綺麗に抜けるように心がけたくらいですが、96kHzへのアップコンバートが良く効いている曲だと思います。

04 ICE NINE ~猫のゆりかご
カートヴォネガット作のSF小説・猫のゆりかごに着想を得て声優の麻生夏子さんに描いた曲。のセルフカバー。青盤バージョンはイントロから歌が入るところでリズムパターンが変化していたが、そこでビートが変わることが小賢しく思えていたので歌中のビートに統一しました。演奏はすべて石田。

05 厚木の空
石田:ギター、ボーカル、シンセサイザー
高石マキオ:ベース
河野瞬:ドラム
佐々木健太:エレクトリックピアノ
たしか2010年の冬、高速道路を走って帰ってきた時に大雪でインターチェンジの降り口でトラックが立ち往生して動けなくなり渋滞にハマった雪の夜に車中で書いた曲。今回の改編では最後サビに入る前のドラムのフィルが変更になっていたり、後奏部分がカオスで旋律が全然わからなくなっていた部分を整理したり(こういう細かいところに手を入れる時間的精神的余裕が当時はなかった)して聴きやすくなりました。音量・音圧というより音像が全体的にファットな曲で、この曲のイメージを軸にアルバム全体をマスタリングをしていきました。

06 Finding sunset
石田:アコースティックギター、ボーカル
高石マキオ:ベース
河野瞬:ドラム
佐々木健太:キーボード
たしか2010年に演劇集団キャラメルボックスの演目用に依頼されて書いた曲。その当時のバージョンは石田一人で演奏していたものを青盤用にバンドで演奏したバージョンが本作。この曲の聴きどころはなんといってもマキオさんと河野君の出すサビのビート感につきます。マキオさんのボッぺッボッぺッとオクターブで弾く歯切れのよいフレーズ(難しいんですよこれ)にタイトに四分のバスドラムを当てグイグイ前に引っ張る河野瞬、思わず体が動く素晴らしいビートです。

07 支える手
石田:ギター、ボーカル
高石マキオ:ベース
河野瞬:ドラム
佐々木健太:キーボード
この曲を書いたのは当時我がFC町田ゼルビア(以下ゼルビアと記載)が戦っていたJFL(日本サッカーリーグ)の2011年シーズン終了後なので、2011年終盤か2012年初頭。よく勘違いされるがゼルビアのために書いた応援歌ではなく、Jリーグ昇格のために必要なスタジアム整備のための署名活動を主導した「ゼルビアを支える会」(現在は後援会に昇格)のメンバーに感謝の意をこめて作ったもの。YouTubeには当時一人で演奏した最初のバージョンにサポーター有志が映像をつけたものが上げられていたり弊社ガールズクワイアのカバーバージョンも2-3あったりと色々存在していて賑やかで嬉しいものです。当時ゼルビアを応援していた往年のサポーターからは今でも聴くと涙が出ると言ってもらえる大切な曲です。青盤では吉田明広氏にミックスを助けてもらいましたが今回の再編では96kHzにアップコンバートしたのでいずれにせよミックスはやり直しとなり、自分で行いました。

08 アルティールの翼
石田:ギター、ボーカル、シンセサイザー、リズムトラック
徳永寿子:エレクトリックピアノ
ガンダムで有名なサンライズのゼーガペインというアニメ作品がパチスロになるというタイミングで大当たりが出た時に流れる曲をと依頼されて作った曲。非常に良くできた優れた楽曲だと自負しているのですが、このパチスロが難しすぎて曲がかかるところまでいった人がまわりに誰もいない(笑)。私もパチスロやったことないし。パチスロ用に提出した音源は自分一人で演奏したもので、青盤制作の際にキーを変えて(確か半音上げた)新たに原盤を制作。一旦自分で全部つくったものをピアニストの徳永さんに渡して好きに弾いてくださいとお願いしたところ、この素晴らしいイントロとピアノリフがついて返ってきて、非常に感動したことを覚えています。
関係ない話ですが2020年からやっていた自分の昔のロードレーサーの修復の傍らうちの息子が乗っていた少年用自転車もレストアしていたのですが、これは完成後に徳永さんの息子さんに差し上げました。

09 水色
石田:ギター、ボーカル
高石マキオ:ベース
河野瞬:ドラム
佐々木健太:キーボード
この曲も 2008年だったか2009年だったかにキャラメルボックスから依頼されて書いた曲「Mizuiro β」のバンドバージョン。佐々木健太君のシンセストリングスが非常に効果的で印象的、Mizuiro βからの進化を促進しています。当時激化し始めた少子化と表面的な優しさ(というより当たり障りのなさ)が色濃くなっていく社会に物申した作品。

10 Life is mine
石田:ギター、ボーカル、シンセサイザー
高石マキオ:ベース
河野瞬:ドラム
佐々木健太:キーボード
青盤と比べて最も音質が改善されたのがこの曲ではないでしょうか。マキオさんのベースがファズがかかっていてバキバキなのですが、こういう音質のベースから低音を引き出すのが結構難しく当時は技量不足で薄っぺらい音になっていましたが、今作では迫力あるサウンドに引き上げることが出来ました。この曲は1曲目のLife is fineをアニソン制作の依頼から作った際に副産物的にできた曲だったと思います。

Bonus track
11 稜線上のランウェイ

演奏は石田一人です。2016年の晩秋から年末にかけて4人の友達が相次いで他界し、非常に深いダメージを負いました。その中で最も大きな喪失は言うまでもなく親友・黒沢健一の逝去でした。当時キャラメルボックスから曲の提供の依頼を受けていましたが本当に何も作れなくなりました。しかし仕事ですし約束ですから作らないといけない。意を決してこの友を失ったことを歌に記すことにしました。4人の友達のうち2人はなんの前触れもなく突然に命を落としました。生きていることと死ぬことは実は非常に細い一本の線のこちら側と向こう側でしかないのかもしれない。ひょんなことから向こう側に足を踏み入れてしまうことがあるのかもしれず、その時を死というのかもしれない。でもそれを恐れずに全力でその境界線を走り抜けていく。君の夢も載せていく。そんな決意で書いた曲です。
当時の自分の音響技術では冒頭の音の薄い部分とバンド演奏が入った後との音量差を違和感なく聴かせる技術が足りず全体的に音が細くなっていましたが、現バージョンでは全体的にファットで感情の入ったサウンドに表現できていると思います。

12 It’s a new day
石田:ギター、ボーカル
高石マキオ:ベース
ひぐちしょうこ:ドラム
Scudelia electroを一旦終了させた後の2006年、初めてソロの作品を当時の所属事務所で制作したのはBlack birdとこの曲がカップリングになったシングル盤でした。マキオさんとひぐちしょうこさんに代々木にあったボロビルの地下のスタジオSTEP WAYに来てもらってBlack birdと二曲レコーディングしました。
同年に秋田児童連続殺人事件という母親が我が子を谷に突き落として殺害するという耳を疑うような事件があり、大きな衝撃を受けました。誰しも愛されるために生まれてきた筈なのに、愛されたかったであろうに、ろくに風呂にもいれてもらえず髪もボロボロで痩せ細り、どれほど悲しく辛く短い生涯だったであろうと思うと今でも涙が出てしまいます。全ての大人は幼い者たちに愛を注ぎ希望に満ちた未来を夢見させる責任があります。なのに。私がこの子に何かしてあげられたわけではありませんが、せめてこの子のことを思って歌を作り、ギターを弾こうと思いました。特に後奏のギターソロが感情が振り切れて泣き叫んでいるように聴こえるのは、そしてエンディングがまるで新しい夜明けの光を感じさせるようなのは、この子の魂が悲しみから解き放たれて安らかに眠り、そしてまた新しい命として幸福に愛されて生まれてきてほしいと、心から願ってこういうサウンドになったものです。17年もの間日の目をみることのなかった曲ですが、ソロとして作品を作り始めた頃に大きな意味を持っていた曲であることは間違いありませんので、今回ボーナストラックとして収録しました。

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CD版 https://satrecords.thebase.in/items/72120478
24bit 96kHz WAVデーター・ダウンロード版 https://satrecords.thebase.in/items/72186643